archetype* blogイノベーション組織研究21:ING

イノベーション組織研究21:ING

デジタルバンキングのパイオニア” オランダの総合金融機関「ING」

今回はオランダの総合金融機関INGの取組みについて紹介します。INGは世界40ヵ国・地域で、4,700万人の法人・個人顧客を相手に、バンキング、モバイル決済等、様々な商品とサービスを提供しています。

INGは1991年に設立された新しい金融機関ですが、当時はまだ珍しかった「デジタル技術をバンキングに取り入れる」という発想にいち早く着手し、自他共に認めるFinTechの先駆け的存在となりました。1997年にカナダでリテール顧客向けオンラインバンク「ING Direct」を開始し、米国、英国、ドイツなどの欧米諸国で次々とサービス展開に成功しています。

INGのアジャイル組織

INGは、2014年から8億ユーロ(約915億円)を投じた大規模なデジタル改革プロジェクト「Accelerating Think Forward」に着手しています。最も特徴的なのは、組織のアジャイル化です。INGは、「アジリティ」を最重要視していますが、これはいわゆる一般的な「アジャイル」ということだけを指しているのではなく、新しい方向に向かってすばやく適応できる柔軟な組織力のことを指しています。特筆すべきは、単に各部門の組織構造やプロセスなどの「方法論を変える」だけでなく、チームがEnd to Endで一貫した原理を持つことを重要視している点です。

INGのアジャイル組織は、Spotifyの「Squads」「Tribes」「Chapters」モデルを参考に作られており、1チーム約9名の「Squad」と13の「Tribe」で構成されています(2017年時点)。

Squadは、マーケティング、プロダクト、営業のエキスパート、UXデザイナー、データアナリスト、ITエンジニアといった多様な分野のメンバーから構成される、高い自律性をもった小規模チームです。チームは顧客のニーズを解決することに注力し、共通の成功の定義のもと、協力しあう組織・制度・文化を構築しています。

Squadのプロダクトオーナーはチームメンバーを協調させ、プロダクトバックログやタスクの優先順位を管理する責任がありますが、オーナーがリーダーというわけではなく、これはチームメンバーとしての一つの役割です。チームとしてのミッションのステータスが進展するにつれて、チームや役割もそれと共に変わっていき、ミッションが完了すると、チームは解散します。

Tribeは、関連性のある(連携する必要性のある)Squadのまとまりで、約150人で構成されています。Tribeのリーダーは、タスクの優先度の設定、予算の調整、他のTribeとの連携といった、調整やナレッジ共有等を行います。また、各Tribeには、チームのパフォーマンス向上を支援するアジャイルコーチもいます。

また、マーケティングやITいった職能別の専門家チームがChapterという形で存在します。Chapterは、Squad横断的な専門領域のサポートと、それぞれの専門分野における個人スキル開発を目的としています。

これら組織のアジャイル化は、最初はINGグループ本社の3,500人のスタッフを対象として、マーケティング、プロダクト・マネジメント、チャネル・マネジメント、そしてITといった部門から始められました。まずは会社の核となるところからはじめて、その成功事例を他の組織に展開するという考え方です。

一方で、HR、ファイナンス、リスク管理といった間接部門、支店、コールセンター、オペレーション、ITインフラといった部門はいったんTribeやSquadといったモデルに移行する対象から外されました。ただし、これは彼等が「アジャイル」でないわけではなく、「アジリティ」は別の方法で取り入れられました。

例えば、オペレーション部門やコールセンターにはザッポスの事例を参考にして、自律型組織のモデルを導入しました。以前よりも大きな責任を持ってもらい、同時にマネジメントによる管理を減らしました。他にも、営業部門や支店には毎日の「朝会」(stand-ups)などを通じて、「アジリティ」を高めてもらいました。

また、法務、ファイナンス、リスク管理は独立性が重要なため、Squadの一員とはしませんでした。一方で、Squad側がこういった部門に客観的なアドバイスなどを求める、という形で連携を図っています。

スタートアップとの連携

INGのデジタル改革は組織内部という枠組みを超え、顧客へのサービスにも及んでいます。ドイツではすでにバンキングを完全デジタル化させている他、決済スタートアップiDealと提携し、WhatsAppやFacebookといったSNSから決済可能なアプリ開発にも挑戦しています。

さらに、新たな商品・サービス開発手段として、アクセラレータプログラムとして「FinTech Village」を開催しています。16週間の集中型プログラムを通して、スタートアップに人生の転機となる大きなチャンスを与えると共に、各企業の理想とするビジネスモデルを構築し、実現に向けたソリューションを提供しています。 Deloitte、IBM、SWIFTなどとの提携のもと、一流の国際ネットワークを駆使し、常に先進的なアプローチを志すことで、既存のアクセレータと一線を画しています。

インキュベーションのプロセス

INGにおけるインキュベーションは、前述のアジャイル組織による自社プロダクト開発を対象として、PACEと呼ばれる5段階のプロセスで進みます。INGの従来のアプローチに、デザイン思考、リーンスタートアップ、そしてアジャイルの手法を組み合わせたものです。

DISCOVER
このフェーズでは、事業環境の課題・背景を明らかにします。市場を広く見渡し、事業機会、脅威、および制約条件を特定し、課題に対してどのようにアプローチしていくかのビジョンを形成します。ここでは、潜在顧客を特定するために、消費者行動や市場動向、技術、規制、競合他社の状況等をリサーチします。

PROBLEM FIT
このフェーズの目的は、解決する価値がある問題は何か、そして誰にとっての問題かを定義することです。 事業創出における失敗の多くは、事業運営がうまくいかないからではなく、そもそも存在しない問題を取り扱っていたり、あるいはさほど重要ではない問題を解決しようとすることに起因します。

ここでは、顧客にとって、対象とする問題がどれほど重大であるかを判断することで、取り組もうとしているテーマが事業機会として適切かどうかも検証します。

このフェーズでは、現時点での仮説検証と、次フェーズで構築するMVPの要件定義のために、プロトタイプを構築してテストします。このプロトタイプは、テストが完了した後で破棄されるため、可能な限り短時間で、最小限の投資で構築します。

SOLUTION FIT
このフェーズの目的は、顧客の問題を解決する最適なソリューションを定義することです。ソリューションの機能群について設計・検証を繰り返し、顧客が最も好むソリューションに仕立てていきます。

MARKET FIT
このフェーズでは製品やサービスを構築し、ローンチします。これにより、実際の市場におけるビジネスモデルや事業性を、顧客の反応に基づいて検証することができます。ソリューションを繰り返しテストしながら、再現性がありスケーラブルなビジネスモデルを探していくこのプロセスは、PACEにおいて最も難しく不確実性の高いフェーズとされています。

SCALING
最後のSCALINGフェーズでは製品やサービスを普及させるために、市場に参入するための最も速く効果的な方法を定義します。

創出されたサービス/プロダクト

YOLT

ユーザーが持つ複数の口座(預金口座やクレジットカード口座等)を、ダッシュボードから一元的に管理できるアプリ。給料日までの日数を把握し、口座引き落としに基づいて銀行の残高を予測し、支出パターンの大幅な変化を指摘してくれる。2016年にイギリスでローンチし、2018年からはフランス・イタリアへも展開。90万人以上のアクティブユーザーを抱えている。

Twyp

スペインで展開する決済アプリ。Twyp は「The Way You Pay」の略。当初は、ユーザーがスマホに登録している連絡先に少額送金ができるP2P送金機能のみだったが、現在はオンラインやリアル店舗での決済機能も備えている。

イノベーション組織マッピング

INGは、自社によるプロダクト・サービス開発も行いつつ、スタートアップとの連携にも比較的オープンです。いずれもフィンテック領域に限定されているため、事業ドメインとしては既存事業の強化につながる領域といえます。

まとめ

いかがでしたか、今回はデジタルバンキングのパイオニアINGについて紹介しました。

既存事業から独立した組織・プロセスを構築するのではなく、企業全体のマインドセット・プロセスを変革し、結果的に事業創出につながっている事例は、事業開発だけでなく、企業の全社的な経営戦略としても参考になるのではないでしょうか。

柔軟性の高い企業カルチャーが、事業にどのように影響を与えていくのか、今後の展開にも注目です。

参考

ING

YOLT

Twyp

     
一覧に戻る