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イノベーション組織研究3:AT&T Foundry

IoTを中心とするイノベーションセンター「AT&T Foundry」

今回はアメリカ最大の通信会社AT&Tのイノベーション組織、「AT&T Foundry」について紹介します。AT&T Foundryは、IoT関連領域において外部企業とコラボレーションし、イノベーション創出することを目的として設立された組織で、2011年の設立以来、現在世界6都市に拠点を構えています。(パロアルト、プラノ、ヒューストン、アトランタ、ラーナナ(イスラエル)、メキシコシティ(メキシコ))

設立時には、AT&T以外にエリクソン、アルカテル・ルーセント、シスコ、インテル、マイクロソフトなどが出資し、合計1億ドルの資本で立ち上げられました。これまでに500以上のプロジェクト、数十の新製品・新サービスが生み出され、AT&Tの発展に寄与しています。事業ドメインはIoTを核として、ドローンや被災地復興、サイバーセキュリティ、コネクテッドヘルスケアなど多岐に渡ります。

AT&T Foundryの特徴として、都市ごとに研究テーマを設定し、テーマに応じたスポンサー企業がついている点が挙げられます。 (下図参照)

施設ごとに研究テーマが定められており、各施設に紐づいたスポンサー企業は自社の最新技術も提供し、AT&Tとともに研究・開発を進めます。もちろん外部企業の技術者たちもAT&Tの技術・リソースを使用可能です。

また、スポンサー企業以外にもAT&T Developer Programに登録しているメンバーは自由にAT&T Foundryにアクセスできるようになっています。以上のように異業種、スタートアップとの共創を前提として設計された組織であると言えます。

事業シーズソーシングプログラム「TIP」

他のイノベーション創出プロセスとして、社員向け事業シーズソーシングプログラムであるThe Innovation Pipeline(通称TIP)が挙げられます。

TIPではAT&Tで働く社員であればいつでも誰でも製品・サービスのアイデアを提出することができます。その後TIP上での議論、投票を経て選抜された10人のアイディア発案者は、Angel Investorと呼ばれるシニアエグゼクティブに対してプレゼンを行い、彼らの判断によって投資実行されます。

つまりこのプログラム上では、AT&Tの社員が起業家、シニアエグゼクティブがベンチャーキャピタル(VC)のように振舞うことで、社内にインキュベーションの仕組みを構築していると捉えられます。

なお、これまでに世界54カ国から13万人以上のアクティブユーザーがTIPを活用し、5万件以上のアイディアを投稿、合計4,500万ドル以上の資金がTIP発のアイデアに投資されました。 国内でもこのような社内インキュベーションプログラムは散見されますが、ここまでの規模と出資額の事例は少ないように思います。

経営層のイノベーション創出への危機感と、コミットメントの高さが見られるのではないでしょうか。

事業化方法

TIPを通過したアイデアはAT&T Foundryへ移管され事業化が進められます。発案した社員、スポンサー企業、スタートアップを含めたチームが組成され、プロトタイプ開発や、ユーザー検証を行います。さらに、マーケティング、ビジネス戦略を構築し、AT&T既存事業への吸収や、スポンサー企業からのローンチなど事業化方法が検討されます。

既存事業部に引き渡す際も、TIPを通じてシニアエグゼクティブが投資意思決定をしていることもあり、比較的スムーズなようです。

これまでのプロジェクト事例

これまでに製品化、事業化されているプロジェクトとして以下の事例が挙げられます。AT&Tの既存の事業ドメインに囚われないプロジェクトが行われている事、外部企業と連携して開発している事が特徴としてあげられます。

AI Powered Prescription Medication Reader

盲目、または著しく視力が低い方向けの、処方薬管理サポートスマートグラス。スマートグラスを通じて処方薬の記載を読み取り、音声で読み上げることで適切な処方薬管理を行う。スタートアップのAiraと協力し、同社のAIプラットフォーム、スマートグラスなどを使用している。

AT&T DriveMode

運転中のスマートフォン操作による事故を避けるため、運転時は自動でサイレントモードになり、運転中であることをテキスト返信するアプリケーション。

また音楽プレイヤーやナビにもワンタッチでアクセスできる。保護者が子どもの安全運転をモニターするため、本アプリがオフになると保護者に通知される機能もある。

Flying COW

第一応答者ネットワーク庁(First Responder Network Authority: Firstnet)と共同で開発された、様々な厳しい天候にも耐えうるドローン。災害地の救助を目的として開発された。

イノベーション組織マッピング

事例にもあるように、AT&T Foundry内では、既存コア事業である通信を応用し、ドローンや被災地復興など関連するドメインに展開するテーマが多く見られます。また、異業種の大企業をスポンサーとした共同開発や、毎年平均500社程度のスタートアップ連携など、非常にオープンな取り組みをすることも特徴と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたか、今回はAT&Tのイノベーション創出組織としてTIPとFoundryを紹介いたしました。

今回取り上げたAT&Tの特徴として、アイデア創出に自社のプラットフォーム「TIP」を用い、全社から広くアイディア収集し、それらに対して多額の出資をする点や、事業化フェーズでは各Foundryに外部スポンサーをつけ資金・技術の両面で積極的に外部連携を行なっている点が挙げられます。

コア事業領域から周辺事業領域へ展開していく方法として、アイディア創出はTIPのように社内から幅広くボトムアップに収集しつつ、事業化段階ではFoundryのようにトップダウンに領域設定し、外部の大企業/スタートアップと資金面、技術面で連携しながら事業化するという方法は、日本企業でも参考になるのではないでしょうか。

     
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