archetype* blogイノベーション組織研究 2: Cisco Hyper Innovation Living Labs (CHILL)

イノベーション組織研究 2: Cisco Hyper Innovation Living Labs (CHILL)

Ciscoのイノベーションプログラム「CHILL」

第2回目となる今回は、世界随一のコンピューターネットワーク企業Ciscoの事例を紹介します。Ciscoは2015年頃より、社内だけでなく、多くの社外プレーヤーを巻き込んだイノベーションプログラムを運営しています。その名はCisco Hyper Innovation Living Labs、略して「CHILL」と呼ばれています。CHILLは、エグゼクティブクラスを中心としたCiscoの社員、同社の顧客企業、様々な技術者、さらにはエンドユーザーも参加し、共創(Co-Creation)をテーマとしたプログラムです。

この“共創”という言葉、日本ではバズワードとなりつつも形骸化している側面もあるように思います。Ciscoでは顧客企業やエンドユーザーも参加する共創型イノベーションプログラム「CHILL」をどのように運営しているのか、また、どのような方法で共創を実現しているのか掘り下げていきます。

プログラム設立の背景と概要

CHILLはCiscoのKate O’Keeffe(ケイト・オキーフ)氏により2014年に設立されました。彼女はオーストラリアでの起業後、2008年にCiscoに入社し、Kate氏の「近い領域で同じような課題に直面している複数の大企業が、スタートアップのように新規事業開発に取り組む方法はないか?」という疑問からCHILLはスタートしました。

CHILLでは、複数のパートナー企業を一斉に集結させ、2日間の新規事業開発ブートキャンプを開催します。各回の参加者は150名程度集まるといいます。
 会場は回に応じて様々ですが、会場内には上図のようなアリーナが設営され、各アリーナにはレーザーカッターや3Dプリンターといったツールや、デザイナー・エンジニアらプロトタイプ設計に関する専門家が配置されます。参加企業のメンバーは複数人ずつのグループに分かれ、設定された課題に取り組みます。チーム内でのディスカッション、プロトタイプの開発、エンドユーザーへのヒアリング・フィードバックを行いながら、2日間でビジネスプランを構築します。

イノベーションプログラムとしての特徴

CHILLチームは、ブートキャンプ前の3ヶ月ほどの期間を準備に費やします。

準備①:フォーカスゾーンの設定とパートナー選定

最初にCHILLチームは、フォーカスゾーンの決定を行います。
フォーカスゾーンは、Ciscoの事業戦略に即した領域かつ、パートナー企業のケイパビリティが最大限活用できる領域に絞られます。
例えば、中期経営計画に医療のデジタル化を推進するという目標を掲げた年には、医療、中でも特にヘルスケア領域がフォーカスゾーンとして設定されました。

同時に、CHILLチームはブートキャンプに招聘するパートナーを選定します。パートナーは、フォーカスゾーンに課題を持つ様々な業種から選定されます。
ヘルスケアのブートキャンプには、カリフォルニア大学、コミュニティヘルスネットワーク、Walgreens(薬局チェーン)、Vocera(病院・医療システム向け通信サービス)が参加しました。

ここでの特徴として、ブートキャンプには各パートナーのエグゼクティブクラスが集められることが挙げられます。ブートキャンプ後のコミットメントを得るためにも、エグゼクティブクラスが参加するという点は重要なポイントと言えるでしょう。

準備②:課題の特定

その後CHILLチームは、エコシステムの中心企業、領域の専門家、エンドユーザーと対話し、フォーカスゾーンの中でも顧客がどんなことを課題と感じているか特定します。対話を通じて、参加企業にとって最大のビジネスチャンスがある「Opportunity Area」を絞り込み、それらがブートキャンプで取り組むべきテーマとなります。

ヘルスケアの回では、患者と医療サービス提供者が24時間365日遠隔で接続可能な「Virtual Care」や、病院のあらゆるアセットを繋ぐ「Connected Hospital」がOpportunity Areaとなりました。

ブートキャンプ

ブートキャンプでは参加企業のエグゼクティブメンバーが4、5チームに分けられ仮説構築、プロトタイピング、ユーザー検証のサイクルを2日間で回します。

1日目

各チームでのディスカッション、専門家によるプロトタイピング、エンドユーザーへのヒアリングを通じて、仮説構築から検証までを超高密度/高速に行います。特に、エグゼクティブメンバーがエンドユーザーと対話すること日常業務ではほとんど実現しないことであり、貴重なフィードバックの場となるのではないでしょうか。

2日目

ビジネスアナリストに壁打ちしながら、プレゼンテーションの準備が行われます。特にCHILLチームが招聘するビジネスアナリストは、ビジネスモデルに加えて、Cisco独自の収益性指標 “Value at stake”に関するフィードバックを行います。

プレゼンテーションではCiscoや参加企業のシニア・エグゼクティブが、投資の可否を判断します。ここでのポイントは、参加しているシニア・エグゼクティブは「その場で」投資判断をする必要があるということです。即決することでイノベーションのタネが時間とともに風化することを防ぐ施策といえるでしょう。

フォローアップとコミットメントの獲得

ブートキャンプが終了すると、CHILLチームは全参加チームと面談をし、特に投資を受けたチームについては事業化ステップに進むか判断を仰ぎます。各回2〜3チームはプロジェクトを次ステップに進ませるようです。

これまでのプロジェクト事例

ヘルスケアがテーマのブートキャンプからは、がん患者とその介護者がケア情報を共有するSNSサービス「MyWays」が誕生しています。

MyWays

MyWaysは、ブートキャンプ後、Ciscoとコミュニティヘルスネットワークから投資を受けサービスをスタートしました。開発初期からエンドユーザーの意見を取りいれ、現在もサービスを拡大させているようです。

イノベーション組織マッピング

各ブートキャンプテーマはCisco本体の注力事業領域ですが、既存サービスの強化というよりは新事業創出に近く、結果として既存ドメインには“やや近い”イノベーション組織といえるでしょう。また、顧客企業やエンドユーザーを広く巻き込んでいる点から、オープンなイノベーション組織と言えます。

まとめ

CHILLの最大の特徴としては、ブートキャンプ型のプログラムにCiscoや顧客企業のエグゼクティブクラスを参加させ、プレゼンテーション直後に投資判断をすることが挙げられます。

短期間のイノベーション創出プログラムは世の中にも多数ありますが、複数企業のトップのコミットメントを引き出し、すぐさま実行に移す仕掛けがあることは重要なポイントといえます。

また、事前に課題をある程度絞り込むことと、ブートキャンプに開発者・エンドユーザーを巻き込むことで仮説構築から検証までを48時間で実現しています。

     
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